選手がミスをしたとき、怒ってはいけない理由
── 脳と心理から考える「声掛け」の本質
怒声は委縮を生む。言葉は脳に刻まれる。大切なのは「次に何ができるか」だけ。
「なんでそんなプレーをするんだ!」
試合中や練習中に、つい口をついて出てしまう怒声。あなたも一度は耳にしたことがあるはずです。指導者や保護者の立場からすれば、もどかしさや焦りが出てしまう気持ちは理解できます。しかしその一言が、選手の心と体に想像以上のダメージを与えていることをご存知でしょうか。
この記事では、選手がミスをしたときに怒ることがなぜ逆効果なのか、脳と心理の仕組みから解説します。そして、ミスをした選手を「次の一手」に向かわせるための声掛けのコツもお伝えします。さらに私自身のイップス体験も交えながら、ミスとの向き合い方について一緒に考えていきましょう。
怒ると選手が「委縮」してしまう理由
ミスをした直後の選手の脳は、すでに強いストレス状態にあります。そこに指導者や仲間から怒声が飛んでくると、脳は「危険」と判断し、扁桃体(恐怖や不安を司る部位)が活性化します。いわゆる「闘争・逃走反応」です。
この状態では、冷静な判断を担う前頭前野の働きが低下します。つまり、怒られるほど選手は「考える」ことができなくなるのです。次のプレーへの集中力が落ち、体も緊張して動きが硬くなります。これが「委縮」の正体です。
脳は「否定的な言葉」の主語を理解しない
ここで、多くの人が知らない脳の特性をお伝えします。
「そんなミスをするな」「なんで送球をそんなふうに投げるんだ」といった否定的な言葉を発したとき、あなたの脳はその言葉の「主語」を正確に識別しません。
つまり、選手に向かって発した言葉でも、聞いているあなた自身の脳は「自分のことを言われている」と受け取ってしまうのです。これは脳科学的にも示されていることで、「脳内で言語をシミュレートする際、主語の区別が曖昧になる」という性質によるものです。
さらに怖いのは、選手がその言葉を受け取り続けることで起こる「マイナスのループ」です。
「またミスするかもしれない」という不安 → プレーが消極的になる → ミスが増える → さらに怒られる → さらに不安になる…。このループに入ってしまった選手は、自分では抜け出せなくなることがほとんどです。
大切なのは「次にできること」を考えさせること
では、ミスをした選手にどう接すればいいのでしょうか。答えはシンプルです。
「次に何ができるか」だけを考えさせること。
ミスはすでに起きてしまったことです。どれだけ悔やんでも、時間は戻りません。だからこそ指導者が最初にすべきことは、「なぜミスしたか」の追求ではなく、「次のプレーで何をするか」への切り替えを助けることです。
声掛けのポイントは3つです。
①短くする:感情的になっているとき、長い言葉は入りません。端的に「次!」「大丈夫!」「切り替えよう!」と伝えるだけで十分なことが多いです。
②否定語を使わない:「ミスするな」ではなく「しっかり構えて」、「焦るな」ではなく「落ち着いて一つずつ」というように、肯定的な表現に置き換えましょう。
③選手自身に考えさせる:「次はどうしたい?」と問いかけることで、選手は自分の頭で考え始めます。自分で出した答えは、指示よりも強く行動に結びつきます。
私自身のイップス体験から学んだこと
私はかつて、送球ミスで試合を落とした経験があります。あの瞬間の悔しさと、「自分がいなければ…」という罪悪感は、今でも忘れられません。
そのミスを引きずった結果、私はイップスになりました。いざ送球しようとすると手が震え、思った場所にボールが投げられない。練習すればするほど悪化する。何が原因かもわからず、ただ混乱していました。
転機になったのは、「送球ミスは誰にでも起こる」という事実を、本当の意味で受け入れたことです。完璧なプレーなど存在しない。プロでさえミスをする。自分だけが特別にダメなわけではない。そう気づいたとき、少しずつ体が動くようになっていきました。
イップスは「心が送球を拒否している状態」です。怒ることで生まれた恐怖や不安が、動きを縛っているのです。解放のカギは、ミスを「あってはならないもの」ではなく、「起こりうるもの」として受け入れることだと、身をもって学びました。
大切なのは、次に何をするかだ。」
まとめ:怒声をやめて、選手の力を引き出す
ここまでお読みいただきありがとうございます。今回の内容を整理します。
・怒声は委縮を生み、選手のパフォーマンスを下げる
・脳は否定的な言葉の主語を区別せず、ネガティブループを生む
・ミスのあとに必要なのは、「次にできること」への切り替えサポート
・声掛けは短く、肯定的に、選手自身に考えさせる形で
・イップスの根本にあるのも、ミスへの恐怖と否定的な刷り込み
選手の才能を本当に引き出すのは、怒声ではありません。正しい言葉と、安心して挑戦できる環境です。それを作るのが、指導者・保護者・チームメイトの大切な役割です。
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